日本昔話じゃあるまいし、枯れ木に花が咲く事なんてないよ。きっと誰もがそう思っていた。僕だって、きっと、美智子さんだって、そう思っていた。
枯れいくままに… シニアの恋
2024年の終わりが、この世の終わりに思えた。地元を離れて辿り着いた千葉は冷たい風が吹きすさんでいる。
父が他界した後、母と2人暮らしになると、3階建ての築40年を過ぎた家はボロイうえに無駄が多いと考えて土地ごと家を売り、畑も売って数千万円を手にした。そのお金の1部で中古マンションを買った。持ち家で経営していた店を失った僕は次の仕事を模索してはいたが… お金には余裕があったから、母の事を気にしつつも、昼間から酒を飲んで遊び惚けていた。そんなある日、母の病状に気づいて姉に相談した後、脳梗塞の気があるのと、認知症が始まっていると知った。仕事をするにしても、母を気にしながらとなると集中力なんて保てない。日に日に衰えていく母の面倒を見るのが怖くなり、共に公務員の姉夫婦に相談すると、快く母の面倒を見てくれた。ホッとした。救われたと思った。
全ての不安が消し飛んだ。ここが問題だ。ここで僕の頭のネジは完全に緩んで消し飛んだ。仕事もせずに遊び歩き、お金は減る一方。宝くじを当てた人の大半がホームレスになるという話を思い出す。それは実際に起こりうる話。僕はあぶく銭を手にした者が落ち入り安い罠に落ちた。ついに全てを失った僕は、住み込みで働く事を決めて地元を後にした。
そして今、千葉に居る。
転職先の会社が借りてくれている安アパートの前へ立ち、外観を眺めた。アパートの外をほうきで掃いている婆さんを見て、管理人かな?と思ったが、どうやら違うらしい。ただの住民の1人で、やる事がないから掃除しているとの事。
これが美智子さん(77歳)と僕、次郎(59歳)の出会いだった。